古文の読み方(7)
一番小さな文を『単文』と呼びます。
単文は、「主語 + 述語」の形で表されます。
「主語」「述語」の周りには様々な語が置かれて、語を飾ります。古文を読む時、それらの飾りをいったん背後に押しやって、その文の「主語 + 述語」を見つけ出すことが大切です。
あはれ その沢に かきつばた いと おもしろう 咲きはべり
上の文は、「かきつばた」が「咲いた」という事実を伝えるものです。
つまり、「主語(かきつばた)+ 述語(咲きはべり)」が文の主張で、他の語はその事実を修飾したり、説明したり、感嘆したもの達です。
単文 → 体言+助詞、用言+助動詞。
この形をしっかり頭に入れておきましょう。
【ポイント】
古文を読む時に心がけることは、「主語(体言)」が現れたら、その述語である「用言」は何か。
また、述語である「用言」が現れたときは、その「主語(体言)」は何であるかを考える癖を身につけることです。
下の例文を使って「単文」の <区切り> を説明します。
六条わたりの
述語を中心に「単文」を<>で括ってみます。述語に下線を引き、その単文の主語を右に書きました。
(1)<六条わたりの御忍び歩き> のころ、…主語が明示されていない単文
(2)<内裏よりまかでたまふ> 中宿に、 …主語が明示されていない単文
(3)<大弐の乳母のいたくわづらひ> て、…主語は「大弐の乳母」
(4)<尼になりにける> …主語は「大弐の乳母」
(5)<とぶらはむ> とて、 …主語が明示されていない単文
(6)<五条なる家尋ね> て<おはしたり>。…主語が明示されていない複文
(1)「忍び歩き」と(2)「まかでたまふ」の主語は誰でしょう?
<六条わたり> <内裏より>は、場所を表しているのであって、主語は明示されていません。また、(5)(6)の主語も、明示されていませんが、(1)(2)の文と同一人物です。これは、文全体を読めば、想像がつきます。
主語は、この物語の主人公「光源氏」です。前の文や文脈から明らかな場合は、主語はあえて明示しないのが普通です。また、古文において、主語を特定するのに「敬語」がよく活用されます。「御」「まかで」「たまふ」などから高貴は人であることが想像できます。(3)(4)は文中に名称が提示されているから「大弐の乳母」であることが分かります。
それから、(1)の文は、文末の「ころ」までで<ひとまとまり>、(2)は「中宿」までで<ひとまとまり>と捉えることが出来ます。
これらの文は、「ころ」「中宿」と名詞でまとめられていることから「体言相当」(大きな名詞相当)と捉えると、『六条わたりの御忍び歩きのころ』でまとまったひとつの「体言(名詞相当)」と捉えることが出来ます。
そうすると、『内裏よりまかでたまふ中宿に、』の文は、「体言相当」に助詞の「に」が付いていた形とみることが出来ます。
<内裏よりまかでたまふ中宿> に、 → <「体言相当」> に、
こう読むことで、長い一文を読む時の負担の軽減になり、文の構造も捉えやすくなります。
日本語の文の種類は、述語に置かれる品詞から「動詞文」「形容詞文」「名詞文」の3種類に分けられます。
・動詞文:山里に、鶯鳴けり。 鳴く (動詞)
・形容詞文:野山の花、うつくしかり。 美し (形容詞)
・名詞文:池のわたりに咲くは、あやめなり。 あやめ(名詞)
それとは、別に「単文」「複文」「重文」の3種類に分ける方法もあります。
・単文:山里に、鶯鳴けり。 単独で完結した文
・複文;冬来たりなば、春遠からじ。 2つの文が仮定の関係でつながる
・重文:山高し、海広し 2つの文が対等の関係で並ぶ
ここでは「複文」と呼ばれる文の形を考えます。
「冬、来たり」と「春、遠からじ」の2つの単文が、接続助詞「ば」でつながっています。このような場合、2つの文で<ひとまとまり>の一文をしなければなりません。前の文を「前提」として、後の文の「結果」が示されるという関係になっているので、両方の文で一文と捉えないと、文としての意味を正しく伝えられないのです。これが「重文」の関係であれは、「山高し。海広し。」と2つの文に分けてしまっても、間違って解釈されることはありません。
例文で、複文の関係を見てみましょう。
六条わたりの
(1)(2)はほぼ独立した文と捉えることが出来ますが、(3)と(4)は、「大弐の乳母のいたくわづらひて、尼になりにける」と、つなげることが出来ます。さらに(5)(6)(7)も、「とぶらはむとて、五条なる家尋ねておはしたり。」とつなげることが出来ます。「て」という接続助詞を挟んで文がつながります。
<大弐の乳母のいたくわづらひ> て、<尼になりにける>
<とぶらはむ> とて、<五条なる家尋ね> て <おはしたり>。
このように、「単文」+「接続助詞」+「単文」の<まとまり>で捉えるべき文を「複文」と呼びます。助詞の「て」は、「そして」という意味合いで単文をつなげていきますので、「順接の接続助詞」と言われます。逆に、助詞「が」は、「が、しかし」の意味合いで「逆接の関係」で単文をつなげていきますから、「逆接の接続助詞」と言われます。
このように複文として <意味のまとまり> を捉えていくことは、文の理解に大切です。その役割を担っている「接続助詞」に注目して、「順接」「逆接」の音感を、自分の声で耳で自分のものにしてください。
古文の読み始めの頃は、まずは「単文」という最小の <意味のまとまり> を捉えることから始めましょう。その<まとまり>を助詞でつなげていくのが日本語の基本構造です。単文の<意味のまとまり>や<イメージ>を、自分の声で、耳で感じながら読む、このやり方が古文の読みには合っているのは、和歌の読みで感じ取れたのではないでしょうか。このような読みの繰り返しのなかで、徐々に、助詞の働きや文の接続のあり方を感じ取っていけば、自然に複文の<まとまり>が見えるようになってきます。
「文の見方」として、複文を説明しましたが、実は <意味のまとまり> のとらえ方により、別の見方が出来ます。
<大弐の乳母のいたくわづらひ>て、<尼になりにける><とぶらはむ>とて、
<五条なる家尋ね> て <おはしたり>。
現代語訳は、上の段は「重い病を患って、尼になった大弐の乳母」となります。
そして、下の段は「その乳母」を「見舞おうと」「五条にある家」を「お尋ねになった」となります。
「重い病を患って、尼になった大弐の乳母を見舞おう」と、「五条にある家をお尋ねになった。」
音読してみましょう。
音を伴う拍を●、そして無音の拍を○で表し、4拍の区切りを「¦」、8拍の区切りを「┃」で表します。
これを「拍の図式」と呼びます。
ろく¦じょう┃ わ¦たり┃の ¦おん┃ し¦のび┃ あ¦りき┃の ¦ころ
●●¦● ●┃○●¦●●┃●○¦●●┃○●¦●●┃○●¦●●┃●●¦●●
うち¦より┃ ま¦かで┃ た¦まふ ┃なか¦やど┃りに¦
●●¦●●┃○●¦●●┃○●¦●● ┃●●¦●●┃●●¦○○
だい¦にの┃ め¦のと┃の ¦いた┃く ¦わづ┃らひ¦て
●●¦●●┃○●¦●●┃●○¦●●┃●○¦●●┃●●¦●○
あま¦に ┃なり¦に ┃ける¦ ┃とぶ¦らは┃む ¦とて
●●¦●○┃●●¦●○┃●●¦○○┃●●¦●●┃●○¦●●
ごじょ¦う ┃なる¦ いえ┃ た¦づね┃て ¦おは┃し ¦たり
●● ¦●○┃●●¦○●●┃○●¦●●┃●○¦●●┃●○¦●●
「拍のリズム」は、人によって異なるのは当然で、むしろ自然のことです。上記を参考にして、自分の音読の拍を見つけてください。
自身が納得すれば、それが正解です。
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